「・・・・・・」
わたしは言葉を失った。
なんと表現すればいいのだろう。
厳つい門は選ばれた人しか近づけない雰囲気。
徒歩じゃさすがにきつい玄関までの道のり&噴水のある玄関前ロータリー。
品の良い、美しく手入れされた庭。季節の花々が咲き乱れる。
ぶっとい柱がどーんと左右に続く豪華な白い建物にある豪華な丈夫そうな玄関扉(ドアじゃなくって、とびら)を開けた先には、シャンデリアの輝くまたしても豪華な玄関ホール。左右に階段が伸びてます。
はっきりという。自分が思いつく限りの豪邸のイメージを挙げるとする。するとそのほとんどが、この屋敷に当てはまる(だろう)。
プールとか。温室とか。三ツ星シェフとか。自家用ジェットとかクルーザーとか。別荘とか。メイドさん執事さんとか。そういうものもあっておかしくないところ。そこが、海音寺家だった。不覚にも、玄関を入って一歩目で立ち尽くしてしまう。オーラが違う。ありえないよこの世界。
「どうぞこちらへ」
さすがに慣れてらっしゃる、東さんはさっさと紅いふかふかのじゅうたんの上をてけてけと奥へ向かって歩いて行く。
「あ、は、はい」
かなりの緊張と場違い感を漂わせながら、しょぼいスニーカーで高そうなじゅうたんを踏みつけ、後を追う。かなりの不審者だよ自分!
(こんなところにいていいのか、わたし?!)
不安は渦巻く。なんというか、あんなに怒っていた自分はどこへ行ったのだろう。完全に、雰囲気に負けている。台風はあっという間に温帯低気圧だ。
廊下には品の良い絵画や、品の良いツボなどが、品よく飾られている。メイドさんがツボを割って『給料から差っ引くわよ!!』というのがリアルで行われているのだろうか。ちらりと考えてしまうが、どこにもメイドさんがいる気配は無い。だれが掃除してるんだろ?
東さんに案内され、1階の奥(?)に向かって歩いていく。わたしの周りには、さりげなく、ボディーガードの黒服さんがつかず離れずな距離を保っているのが、なんだか心苦しく、現実感をますます無くしていく。
「こちらでございます」
一つの扉の前に東さんは止まる。この扉の向こうに、わたしの結婚相手(断固否定)がいるようだ。東さんは軽くノックをする。
「東です。大野陽芽様をお連れしました」
扉の向こうから返事があった。
そして、東さんは扉を開ける。わたしはその廊下よりも明るい部屋の照明に目を瞬かせた。
「はじめまして。大野陽芽さん」
扉の向こうから、聞こえた声。結婚相手の声。
それは・・・・・・