黒塗りの豪華な高級車が学校を囲んでいる。
その中の一つに乗っけられ、わたしは学校を出た。
・・・・・・にしても。
彼らはとても丁寧だった。とても借金取りには見えない。学校の事務の人にもとても丁寧だったし。
「あの、借金取りさん?」
わたしはすずめの涙の勇気を振り絞って、後部座席の隣に座った、最初に声をかけてきたおじさんに尋ねた。
「借金取り?」
サングラスを再びかけたおじさんはその言葉に思いっきり驚いたようだった。
「お嬢様は、思いっきりカンチガイされていませんでしょうか・・・・・・?」
「え?・・・・・・親父の借金取り関係の方じゃなくって?」
おじさんはにこりと笑った。
「わたくしは海音寺家のボディーガードをつとめさせていただいております、東と申します」
「海音寺家・・・・・・???」
聞いたことあるよな、無いような。
「今日、お嬢様のお父上様から、連絡はございませんでしたか?」
左手のポケットの奥底に、割れた携帯が眠っている。
「あ・・・・・・結婚とか言ってたけどぉおぉおお???!!!」
ま、まさかっ、このべたな展開って?!
「これから、お嬢様には、海音寺家のご子息様にご対面なさっていただきます」
「えぇえええええええええええっ!!」
車がブレーキをかけた。そして慣性の法則でごちんとおでこをぶつけた。
「この年で、結婚・・・・・・?!」
「婚約ですって。詳しくは、だんな様とご子息様に伺っていただきたいと存じます」
さすがにごちんはなく、東さんは涼しい顔で言った。車はゆっくり進みだす。
見慣れない景色。緑が多いこの街の、古い町並みが多い高台方面に向かっているようだった。
会ったことが無い婚約者に会いに、わたしの乗った車は、静かに進んでいった。
わたしの腹の中の台風は、まだまだおさまりそうに無かった。