ブレザーの胸に輝くごついエンブレム(定価3000円)は青色。つまり、それは3年の学年カラーであって、そこにいる人は、3年生らしかった。
(か、かっこいい・・・・・・)
ガタイのいいからだつき、顔はなかなかかわいい感じの3年男子。ブレザーが人より3倍増しで似合っている。その人が、なぜか二年四組の前の引き戸に立って、中を覗いていた。
「あ」
恭子が漏らした声にわたしは振り返る。
「どしたの?」
「たしか、あの人・・・・・・」
思い出そうとして目がくるりと動く。
「最近、転校してきた人、だったはず」
「3年で転校?」
そんな人、いるのか?受験生じゃん。まだ春だけど。
「うん。しかも、私立青葉学院から」
「マジでっ」
あの、偏差値がちょこっと高いけど、見た目からして一般人は受け付けません、お金持ちだけどうぞいらっさい(寮完備)、の、あの青葉からの転校生!?
「なんで恭子知ってるの??」
友人の情報網のすごさに感心。
「見に言ったから」
そして、野次馬根性に完敗。
青葉からの転校生の3年は、きょろきょろと教室を見渡し、そこらへんにいるクラスメイトに何かを尋ねている(というか、彼女がさっき悲鳴を上げた子みたい)。そして、彼女はそっと指差した。誰かを。青葉からの転校生の3年はうなずくと、教室の中にずかずか入ってきた。放課後だというのに、辺りは御通夜みたいにしんとしている。
「お前が、親父が選んだ女か?」
張りのある声だった。青葉からの転校生の3年は、そう言って恭子の前に立った。
「オレがお前の婚約者の海音寺月哉だ。今日、おまえの親父から話があっただろう?」
海音寺?わたしはその聞いたことが無い苗字に、聞いたことがある感じを覚えた。つまり、聞いたことがある・・・・・・。
「い、いいえ」
恭子は首を振る。困ったようにおろおろしている姿は、完璧に青葉からの転校生の3年に圧倒されている。
「そんなことはない。お前の親父は今日連絡すると」
「あの・・・・・・」
青葉からの転校生の3年が話している途中に、さっき悲鳴を上げたクラスメイトが割ってきた。青葉からの転校生の3年は言葉をとめると、ムカッとしたように彼女を見た。
「あ、あの、大野さんは、そっちじゃなくって、こっちです・・・・・・」
あ?おおのさん???
大野さん、おおのさん。おおの。それはわたしの苗字・・・・・・。
「こっちか」
何事も無かったかのように、青葉からの転校生の3年はこっちを見た。そして、言った。
「お前が、オレの婚約者の、大野陽芽か?」
普通な日々が、わたしがやっとやっと支えていた普通な日々が、崩れていった。
がらがらと。