「ごめんなさい!!!」

 わたしは慌てて携帯をポケットから取り出した。すばやく着信の相手を見る。

 親父だった。

「ごめん!話、また今度ね!」

 最高の笑顔を浮かべ、わたしは佐々木君の前から走り去った。佐々木君はあっけにとられたような顔をして、頷いた。

「また今度」

 

 図書館の裏口近くまで走った。

 まだ携帯はマナーモードで鳴っている。

 深呼吸を三回してから、通話ボタンを押した。

「もしもし・・・・・・?」

 電話の奥から、絶叫が聞こえた。

『ひめーーーーーー!!!元気だったかーーーーーー!!!』

 ・・・・・・。一瞬、電話を切ろうと思ったのは言うまでもない。

『ひめ?もしもし?ひめっ返事しないかっ』

親父は電話の向こうでハイテンション。

「もしもし、親父・・・・・・?」

わたしはかなり疲れた感じがした。

『ひめっ、お父さんは悲しいぞ!ずっと呼び出ししているのに出てくれないなんて!!』

「そりゃ今学校だもん」

 学校で携帯は使用禁止。ま、あってないようなもんだけど。

『お、そうか学校かっ!なあんだそうかそうか、ひめはまじめに学校に行ってるのかっ!!なーんだなーんだ!!!』

わははははっ、豪快に親父は笑う。

「で、親父、なんかよう?」

 自分が出せる最大級の冷たい声で請け答える。掃除の時間はもうそろそろ終ろうとしている。その前にあんまり親父と話したくないお年頃。

『実はお父さん、今、日本にいるんだ』

「え?日本に?いつアマゾンから帰ってきたの???」

『いや、アマゾンは前回で今回はヒマラヤ』

親父は律儀に訂正。

『実はヒマラヤの秘法を調べてるうちに河に落ちてしまって、で、偶然にも昔の親友に助けてもらって、で、なんかひめと息子を結婚させたいって言われて』

「はあ」

『そんなわけで、お父さんは、うれしいぞ・・・・・・!そして、悲しいぞーーーーーー!!!』

「はあ」

『今日中に海音寺さんから連絡があるから、海音寺さんによろしくなっ!』

「はあ」

『おとうさんはアザラシに会いに行く!愛してるよひめ!大好きだひ』

 ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・・・・

「はあ・・・・・・」

 パキンといい音がして、携帯が折れた。

「親父・・・・・・!!!」

 わけのわからないセリフがあったな。勢いで携帯をぱっきんしちゃったが、ま、いいか。これで当分、親父から連絡は無い。

 わたしは体の中に、台風を飼ったような気分のまま、教室にもどった。 

 

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