天使な話2

 不穏な空気が対岸から流れてきている。

 河を見張る国境警備の兵士達は、皆緊張した面持ちだった。

 対岸の国・・・・・・スイセキ国が軍の増強を図っているといううわさが大きな原因だった。

 「スイセキが攻めてくるだって〜?」

 魔法使いとして軍に勤めるザイスは、そのうわさを聞いたとき、驚くというより鼻で笑い飛ばした。

 「まさか、スイセキなんてしょぼい国が」

 「最近、国境の警備が厳しくなっただろう?」

 同僚の魔法使いのバールがひそひそという。

 「スイセキを警戒して、らしいよ」

 「オレはアナイラ河に謎の怪獣が現れたから警戒ってほうがまだ信じられるけどね」

 「そっちのほうがありえないって」

 バールは冷静に応対した。

 確かにスイセキ国は昔から多くの石を産出することで有名な国であり、魔法使いはそんなに多いというわけでもなく、軍の規模も脅威というほどではない。そのような国が『魔法使い大国』と呼ばれるこの国、マナ国に喧嘩を売るようなことをするだろうか。

 「ザイス、500年前の戦いのこと、知ってるよね?」

 別の話題を振られ、ザイスは多少面食らいつつ、

 「ああ、昔、ここら一体にあった国があっという間に滅びたって話だろ。たった数人の魔法使いによって」

 「うん、で、スイセキはその国を滅ぼした魔法・・・・・・兵器を開発しているらしいんだ、いや、復活させようとしているのかな」

 「そんな馬鹿らしい」

 ザイスはやはり鼻で笑った。

 「500年前の兵器だって?。それは確かあれだろ、あれ、『天使』。それは魔法使い達があまりにもすさまじかったせいでついたあだ名みたいなもんだろう?そいつらが天の使いだって名乗ってたって話もある」

 それに、と、ザイスは続ける。

 「魔法使いは言い換えれば人間兵器とも言えるしな。『天使』も兵器と呼ばれて然り。だから『天使』っていうのは昔むかしのやつらのことで、兵器開発やら復活なんて死者甦生かよって話。ありえねえよ」

 「そうとも取れるけど。その魔法使いを『天使』とよばしめるほどのものにした技術を復活させようとしていて、ひいては『天使』復活になるって考えられない?」

 「『天使』と呼ばしめるほどのものにした技術?それは努力と才能じゃないのか?」

 ザイスはバールを見た。

 バールはザイスを見た。

 そして、二人は同時に笑い出した。

 「さ、交代の時間だな。行こうぜ」

 「ああ」

 二人は国境の町の見回りに出かける。話はここで打ち切りとなった。

 

 

 二人が『天使』に出会うのは、これから約1年後となる・・・・・・。

2006/6/26  ちょっと変更

2006/3/29 初版 

 

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