天使な話1

 この村を囲む城壁を抜けた先の山。

 その山の山のもっと向こうには、古い王国の遺跡があるという。

 その王国は、多くの天使を作り出し、他国に戦争をしかけた。

 天使という名の、兵器だった。世界最強の兵器とうたわれた。

 しかし、天使は反旗を翻した。

 王国は滅びた。

 後に残ったのは、主をなくした兵器だけだった。

 そして、彼らは細々と生き続けている。

 天使の村が、この王国の遺跡の何処かにあるという。・・・・。

 

 風が流れた。

 どこまでも広がる森。

 そのどこかの木の根元に人がいた。

 体中にびっしりと黄色の羽毛をまとわせ、そして、そこには何対もの翼もあった。

 一番大きな翼は背中に。そして他の翼は顔や手や胸や足、体中に生えていた。

 まさに、異形、だった。人は、ピクリとも動かない。

「やっと見つけた」

 その静かな空間に、ゆっくりと人が近づいてくる。男のようでもあり、女のようでもある人は、根元の異形に近寄った。

「大丈夫だ。お前の羽根は私が責任を持つよ」

 頷いたようにそれは動いた。ように見えた。

「長きに渡り、本当にありがとう。・・・いい旅を」

 瞬間。

 ばっ

 羽の塊だったそれが爆ぜた。あたり一面、黄色い羽根が踊る。風に舞う。

 それはまるで、タンポポの綿毛が一斉に飛ぶような、切なげな美しさがあった。

 人は手を伸ばし、造作も無くいくつかの羽根を手に取った。薄い薄い黄色みがかった、美しく立派な羽根だった。

 風が羽根を運ぶ。

 花びらのように羽根は辺りに散っていく。

 地面には黄色いじゅうたんができていく。

 そして、そこにいるのはただ一人だけとなった。

 手に何枚かの黄の羽根を持つ人の背には、

 白く美しく輝く翼があった。

 ・・・・・・・。

 

 

2006・3・24 初版 

もどる