卵ーAn angelー

 神社で卵を拾った。

 それはさりげなく、何気なく、ご神木の根元に落ちていた。白い見た目は、少し黒く汚れていた。金色の線も少し入っている。

 大きさは、うわさに聞くダチョウよりも小さく、よくみるニワトリのよりも大きかった。

 

 夏の日差しも弱まった、秋の始まりの日だった。

 

 オレはその卵をジャージで包んで、家に持ち帰ることにした。自転車のかごに卵を突っ込んだとき、オレはここまで丁寧にかごに物を入れたことは無かったであろうぐらい、丁寧に丁寧に入れた。

 

 たまご。

 ネットで調べた卵の画像のどれにも当てはまらない、少し黒く汚れた、金色の線が入った卵。とりあえず、卵を育てる環境はオレが抱いていることが一番手っ取り早そうだった。

 

 一晩暖めた。

 次の日の朝。

 

 ぴききっ

 

 卵にひびが入る。金色の線に沿って、ゆっくりひびが入っていく。

 

 ぴきっ・・・・・・

 ぱききっ・・・・・・

 

 「孵る!卵が、孵る!!!」

 中からでてきたものは。

 

 天使だった。

 

 薄い、透明な体。透けた部屋の景色が妙にゆがんで見える。翼がひらひら揺らいで。羽根がしんしん舞って。

 「え・・・・・・」

 思考が、停止した。この自然界で最高の芸術品を前にし、オレは、動けない。

 「えぇえ・・・・・・」

 天使はこっちを見て、にこりと、小さく微笑み、

 飛んでいった。

 天井を通り過ぎて。

 「ええええええーーーーーーー!!!」

 後には何も残らなかった。

 落ちた羽根も。

 殻さえも。

 「えええええええええーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 夏の終わりのひとコマ。

 

2006年12月4日 初版

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