私立紅葉星学園 |
私立紅葉星学園は日本海側にある何の変哲もない学校だった。
紅葉星学園高等科には5クラスある。普通科、情報科、そして『魔術科』。 公式的には魔術科は特別普通コースとなっているが、入ってくる生徒はほぼ魔術の才能を持つものたちばかりだった。そのような才能がないと入れないとも言う。そして、多くが幼稚舎から高等科に入ってきていた・・・・。
「ふむ」
天井まで突き抜けるような窓。カーテンは落ち着いた緑。暑いじゅうたんが敷かれた理事長室では、高そうな威厳のある机に向かって一人の女性が呟いた。
「こんなものか」
長い髪にびしっと決まった緑色のスーツ。彼女は手にした紙切れをぴらりと机の上に置く。
「もーまたそんな簡単にっ!いいのこんなのでっ!こんなのでいいのっ!!」
机の前に立つ別の女性がぶーぶー文句を言う。理事長室に不釣合いなピンクのかわいいブラウスとスカートをはいている。もちろん、ふりふりがたくさんついていて、ゆれる姿がかわいい。
「いいのっていいだろう?別に」
スーツの女性はとりあわないように言った。
「魔術科の案内なんて、あってもなくてもあまりかわらない。ほとんどがエスカレーターの入学者なんだからな」
「でも、まっちゃん!外部から来る人たちもまれにいるでしょ!そんな人たちをガシリっ確保しないと、だめなんじゃないの??」
ピンクな女性が反論する。
「小さいころから才能があるものをきっちり育てる。それが紅葉星の教育方針だ。高校から入ってこられるのは迷惑だ」
スーツな女性のあまりのきっぱりの物言いにピンクの女性はあきれてしまった。
「そんなことまで言わなくても。でも、いいの?こんなモノクロ印刷な手抜きチックなパンフレットで。魔術科に新しく入ろうとする子はみんな桃李華にとられてるわよっ!せめて普通科たちと同じようにカラーに・・・・・・」
「うるさいな紅茶は!!」
スーツの女性は不機嫌そうに紅茶と呼んだ女性をにらむ。
「我が校は代々普通科と魔術科を分けてきた。ゆえにふたつのパンフを作らなくてはいけない。普通科に金をかけるのはアタリマエだろう?」
「普通科はカラーで、魔術科はモノクロだなんて、いかにも経済状況をさらしてるって感じよ」
「金がかかるからな。アタリマエだろう」
「まっちゃん・・・・・・」
「まっちゃんゆうな!」
スーツの女性はそういって一呼吸おき、
「それより紅茶、新しい職場が決まったんだろ?こんなところにいていいのか?」
「あらたいへん」
紅茶はあまり大変そうに言わず、にこりと笑った。
「普通の小学校の先生も楽しいわよ?じゃあね、まっちゃん」
「だからまっちゃんゆうなっ!」
そういってドアの外に消えていった。
「・・・・・・」
スーツの女性はもう一度モノクロのパンフを手に取る。そして、もう一つ、カラーのパンフを手に取る。そこには「私立桃李華学園入学案内」と書いてあった。
「桃李華め・・・」
桃李華は全国から魔術師の卵を集める100パーセント魔術学校だ。魔術師といっても、地域にある魔術学校に通うものが大半だから、桃李華に進学する卵達もここ近辺に住んでるものが多い。県外から来るものたちはまだまだ少ない。
しかし、問題は桃李華と紅葉星が近いところに存在し、ふたつの学校で生徒を取り合っているところがある、ということだった。そして今年、桃李華は二万部ものパンフレットをすったらしい。本格的に日本中から魔術師の卵達を集めようとしている企みが伺われる。反対に紅葉星は魔術師の卵達のほかにも普通の学生達もたくさんいる。そんなある意味で多様性があり、またある意味で魔術に集中できない紅葉星にこれからも人は集まり続けるだろうか?みな、桃李華に流されないだろうか?
「・・・くそ」
女性はパンフレットを丸め、握りつぶした。
女性の名は藤本抹茶。この紅葉星の現役理事長そのひとである。
2006年10月4日 初版