とある伝説

 ・・・・・・むかしむかしのお話です。

 あるところに悪魔の王、魔王がいました。

 魔王はこの世界を征服しようとたくらみました。

 そして魔王は強大な力を持って、多くの生き物たちを従えようとしました。

 ほとんどの生き物たちにはそんな大きな力はありません。なので、魔王に対抗する力を持つために、生き物たちが集まって協力し、一振りの剣を作りました。

 そしてその剣は一人の人間の勇者が使うことになりました。

 しかし、その剣はあまりにも力が強すぎて、一人の力では操れない代物でした。

 そこでその一人の人間と、仲のいい魔族が協力してその剣を使い、魔王を封印しました。

 そして魔王を封印したところにはしっかりと鍵をかけました。

 その鍵は鍵姫が代々受け継ぎ、今も、鍵を守り続けています。

 そして魔王を倒した勇者は剣を悪用されないように封印し、今もそれは国立博物館に展示されています・・・・・・。

 なんだろうな、と、シコウは思いつつ、紅茶をすすった。愛用のマグカップは白い陶器製で、昔、両親が「でかぜぎ」で買ってきたお土産をずっと使っている。

この田舎の村に珍しく吟遊詩人とやらがやってきたのは、つい昨日のことだった。彼はビョウンをかき鳴らしながら、朗々とした声で歌っていた。それを聞いたのはついたその日の夜、つまり昨日で、シコウは友人のセキソウに半分無理やり連れて行かれて酒場に行ったのだった。

 吟遊詩人が歌う話はこの大陸では知らない人がいないんではないかと思われるほどの有名な話、いわば伝説で、もちろん、シコウも知っている。しかし、大陸は広い。地域地域によって微妙に話の内容や出てくる登場人物が違ったりする。今回の吟遊詩人の話は、シコウの知る話と少しだけ違っていた。

(しっかし・・・・・・、国立博物館の回し者だろう、あれ?)

 今日、吟遊詩人は午後のいい時間帯に村の広場で大勢の女性陣を相手に歌っている。それを家の窓からちらりと見てシコウはどうしようもないことを考えた。

(でも、こんな辺境で国立博物館の宣伝をしてもね、誰も行かないだろ?)

 大きな拍手が起こり、詩人は優雅にお辞儀をしている。娯楽が少ない辺境の村のためか、人垣は大きい。今夜もまた酒場は人でいっぱいになるだろう。

 シコウは紅茶を飲みきると、カップを洗い、そのまま裏口に出る。今日やってしまわなくてはいけないことはまだまだ多い。

(確か・・・・・・メコックさんの家の屋根の修理を頼まれてたっけな・・・・・・?)

 しかし、こんな外の状況で、トンテントンテンやるのはひんしゅくを買いそうだ。空を見上げると、真っ青な綺麗な色が広がっていた。春風がひゅうと吹いていく。シコウは畑の草むしりをすることに決めた。

 

「なあ、シコウ。どう思う?」

 友人の顔を軽く見やってこれ見よがしにため息をついてシコウは草をむしり続けた。小さな山がところどころにできている。

「あの吟遊詩人は確かにいったんだよ!姫様が危ないって」

「それで姫様を助けに行く勇者が出てきて、無事に救出されるんだろ?」

「た、確かに話はそうだったが・・・・・・だけど、おれの見た夢に似てるんだよ」

「そうか?」

 シコウは畑の柵に腰を下ろしている赤い髪の友人を見つめた。

「夢だろ?」

「だーかーら、いいか、もう一回ゆうぞ!」

 赤い髪、黒い瞳を持つシコウの友人ーーーセキソウは頼まれもしないのにシコウに夢の内容を語って聞かせた。

(何回言えば気が済むんだ・・・・・・?)

 シコウはこっそりため息をついたが、セキソウはそんなこと気づきもせずに熱く語る。

「まず、女性の声が聞こえる・・・・・・助けて・・・・・・伝説の勇者様・・・・・・私は魔族にとらわれています・・・・・・助けてください・・・・・・みたいなことが聞こえる。」

 見事な裏声に、

「セキソウ、そのいいかた気持ち悪い」

「いいから聞け!そして、俺は・・・・・・伝説の勇者の俺は・・・・・・封印された伝説の剣、ダークライソード(仮)をもって、姫を救いに『封印の塔』に旅立つんだ・・・・・・!」

「はいはい、それで?」

 シコウはもう手元の草を見つつたずねた。

「そして・・・・・・俺は・・・・・・魔族をばったばったと切り倒し、ついに、とらわれの姫を助けるのさ・・・・・・。そして俺は姫と・・・・・・とわの愛を・・・・・・」

 セキソウはああ、と、感動にもだえた声を上げた。いつの間にか立ち上がり、手はぐっとこぶしに握られている。

「なんてすげーんだ・・・・・・!」

「夢だろ夢」

 シコウは根深い草を一個引き抜いて、そばの山に積み上げた。セキソウは夢見るモードから少しもどってきてシコウをじっと見た。

「以上だ。シコウ、さっきの吟遊詩人の話とそっくりだろ?」

「吟遊詩人の話、聞いてないからわかんない」

 実際、さっきの吟遊詩人の話は草をむしっていて聞いていない。なんとなくセキソウの話から内容は想像はつくが。

「な、なぬう・・・・・・!・・・・・・ちっ、しょうがねえな、俺が話してやるよ」

 そういうと、セキソウは遠い目をした。

「吟遊詩人の話はよ・・・・・・伝説の剣を抜いた選ばれし勇者がお城のとらわれの姫を助けに行く話だったんだよ!」

「ぜんぜん違うし」

「なにゆうんだ!話の大筋は一緒だろ!」

(大筋しかいっじょじゃないって認めるんだな・・・・・・)

 シコウはそう考えつつ、大きい緑の葉を思いっきり引っ張った。

「と、いうわけで、俺は・・・・・・姫を助けに行く!」

 唐突なセキソウの物言いにシコウは固まった。

「はい?」

「俺は姫を助けにいくっていったんだが。もちろんお前も一緒に連れてってやるぜ!」

「はあ?俺もって?」

「なあに言ってんだよ、俺たち親友だろ?シコウが兄さんから連絡がなくって心配していることぐらい、知ってんだぜ?」

にやり、とセキソウは笑った。

(な、何でそれを知ってるんだ・・・・・・)

 その通りだったのでシコウは硬い表情のままだった。

「俺と一緒に都に行こうぜ!そうすりゃ兄さんに会えるって!ちょうどいい機会だろ!旅費は俺が大半は出すからさ」

 セキソウの言い草は、俺についてきて欲しい、と強制しているもののように聞こえた。というか、そういうふうにしか取れない。一瞬、シコウは、兄から自分への手紙はセキソウが権力を使ってとめているんじゃないんだろーか、と、考えてしまった。しかし、そんなわけもなく、セキソウに散々口説かれて、シコウは頷くしかなかった。

(俺ってお人よしだな・・・・・・)

 

2006/06/26 第二版

2006/04/19  初版

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