魔法少女1 |
暗い部屋。
明かりはカーテンの隙間から漏れる街灯とパソコンのディスプレイのみ。
彼は、苦悩していた。
白い光が、彼の顔をおぞましく照らす。
彼は、力なく呟いた。
「あぁあ・・・・・・レポートが終らない・・・・・・」
ディスプレイでは、まだ、何もかかれていないワードの文章作成ページが味気ないカーソルとともに、彼の入力を待っていた。
ピラポラー♪
妙に愉快で軽快なかわいらしい音とともに、スクリーンセーバーが立ち上がる。彼はそれをなんともなしに見つめていた。
画面の中を、見たこともない少女が踊りだす。
常識ではありえないピンクの髪、マリンブルーの瞳。これまたかわいらしいふりふりの青と白が上手に混ざったワンピースを来て、リボンのついたエナメルの靴でかわいく踊っていた。手にはピンクのハートのステッキ。耳を澄ますと歌でも聞こえてきそうだった。
彼は普通に、彼の友人がふざけて勝手に設定していったものだと思った。
彼が愛用しているものは、何の味気もない、パソコンメーカーの文字が横に動くものだからだ。
「ぴっぴぴーぷっぷっぷーぴっぴぷっぷぷぴー♪」
女の子が変な歌を歌いながら、踊っている。
「ぴっぴぷっぷっぷぴ!イエィ!!」
そういって画面の彼に向かって決めポーズ。そしてまた最初にもどる。
と、思いきや。
「こんにちは、大学生のおにいしゃん」
「!」
彼は面食らった。ピンクの髪の女の子が画面のこっちに向かって話しかけてきたような気がしたからだ。
「わたしの名前は、魔法少女見習い、モモチョコ。ひとは、モモちゃんってよぶの」
「・・・・・・」
彼は画面に向かって顔を近づけた。画面はまったく掃除していないせいで、うすく白くなっている。
「もう、おにいしゃん、返事してようっ!」
「あ、・・・・・・はい」
彼はつい返事をしてしまう。画面の友人が落としたであろう変なキャラが延々と語るスクリーンセーバーに返事をしてしまった。有る意味、留守電に向かって話すよりも恥ずかしい。
「よーっし。おにいしゃん」
しかし、画面の少女はにこにことハートのステッキを抱えながらうなづいた。
「わたしが、おにいしゃんの願いをどーんとぱあっと、かなえてあげる」
「オレの、願い・・・・・・」
「そう。おにいしゃんの願い。レポートがどうとか言ってたけど?」
彼は不意に現実にもどる。
レポート。
明日までのレポート。一日遅れるごとに評価点がマイナス1点されていくレポート。
「やばい、レポート・・・・・・」
彼は慌ててマウスを動かした。
が、しかし、画面は少女の顔がきらきらと映し続ける。
「あれ?どうなってやがる・・・・・・」
「おにいしゃん、願い事、ないの?」
「オレは、レポートを書きたいんだ、何だこの・・・・・・怪奇現象????」
画面の少女はくるりとステッキを振った。彼はふと、セーラーちびムーンのスティックを思い出した。
「わかった、おにいしゃん。レポート書きたいのが願いだね」
「そうだよ!」
まだスクリーンセーバーは動き続ける。しかし、中の少女と話せること自体、すでにスクリーンセーバーの域を超えている。いや、その前に、ありえな・・・・・・
「ももちょこももちょこまじょっこぴぷぺ!おにーしゃん、レポート書けっ!!」
画面が、光る。
ピンクの光だった。
彼はその光に包まれ・・・・・・
はっと気がつくと、部屋は明るかった。
光源はもちろん、出たばかりの太陽。カーテンの隙間から今日一日の暑さを予想させる。
「レポート・・・・・・」
彼はパソコンの画面を見つめた。そこにはピンク色の少女は存在せず、ただ、真っ黒い液晶面が存在した。スリープモードからパソコンを起こす。そして、そこにある、昨夜からほったらかしの画面、真っ白なワード作成画面にただ一文、文字が打たれていた。
『レポート書きたい』
彼は早朝のすがすがしい光の中、必死にレポートを書き上げた。
終わり
2006年6月26日 第二版
2006年6月18日 初版